REPORT[レポート]

ORGANIC COTTON SEMINAR 2017 ♯後編

 

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bioRe INDIA LTD.のCEOをしておりますVivek Rawalです。私からは現地におけるbioReプロジェクトの具体的な活動についてお話ししたいと思います。bioReの取り組みは世界的に見ても大変ユニークで、先進的なオーガニックコットンの作り手としても知られています。本日私たちの活動をみなさんにご紹介できることを大変うれしく思っています。

 

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Vivek Kumar Rawal : CEO bioRe INDIA LTD.

1979年にインドのカスラワッドに生まれる。2005年bioRe Associationの初めての雇用者としてbioReプロジェクトに参画し、2013年にbioRe INDIA LTD.の商業/農業部門に異動。その後、bioRe INDIAの取締役兼CEOに昇進。現在4000軒の農家からなるインドのbioReプロジェクトを率いている。
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bioRe india

 

インドにおけるbioReプロジェクトは、bioRe INDIAとbioRe Associationという二つの組織によって運営されています。bioRe INDIAは2001年に株式会社として法人化され、現在43名のスタッフが働いています。

約4000軒の契約農家が2万エーカーの土地を使ってこのプロジェクトに協力してくれており、コットンに関しては7000エーカーの土地で栽培されています。それ以外の土地では、大豆や麦などを育てています。オーガニックコットンを栽培していくためには、輸作をしなくてはならないので、綿の栽培以外の農作物を作っているのです。2つの組織の内、bioRe INDIAはオーガニックコットンの栽培と原綿の販売までを担っているということですね。

 

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bioRe association

 

bioRe Associationは、社会的な課題に取り組むNGOとして2004年に登録されました。

オーガニック農法を実践するためのサポートや、教育、健康、生活、環境といった社会問題の改善ために活動をしています。全ての活動は、農家の人たちによって管理・運営されています。私は、元々ここのスタッフの1人でした。現在は135人がこの組織で働いています。

株式会社とNGOという二つの組織があることで、経済的側面と社会的側面の両方から持続可能なアプローチを実践することができます。このような取り組みは、創始者のパトリック・ホフマン氏の理念に基づくものです。

 

 

Traningcenter

 

私たちの活動の拠点は、インド中西部のKasrawadという村にあります。

会社の設立は2001年ですが、オーガニックコットンの栽培自体は1991年~1992年に既に始まっており、初めは専門的な職業というより、もう少し趣味的な形で75人の農家の方々が始めたものでした。

2005年にこの地にトレーニングセンターが開設し、様々な研究がなされるようになりました。トレーニングセンターの敷地内にはbioRe INDIAとbioRe Associationそれぞれのオフィスがあります。年間約4,000人の農家の方々がここを訪れ、有機農法のテクニックや認証を取得するための方法などを学んでいます。それと同時に、農家の方々にはbioReの概念や理念に対する理解も深めてもらっています。

 

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Relationship with farmer

 

農家の方々にとって、bioReプロジェクトに参加することによってどの様なメリットがあるのかご紹介したいと思います。

まず、オーガニック農法を実践するにあたり、どのような種を使うのかということは大変重要なポイントです。オーガニックでは遺伝子組み換えではない(NON GMO)種子を使用しなければならないからです。

近年、インドではGMOの種子が市場を席巻しており、NON GMOの種子を調達することは極めて困難な状況となっています。市場で種子を購入するとGMO種子が混入している可能性があるため、私たちは自らNON GMOの種子を調達し、契約農家の方々には私たちから直接購入してもらっています。経済的に購入が困難な場合、無利子のローンを組むこともできますし、収穫した綿花で支払うこともできます。

慣行農業とオーガニック農業というのは全く異なります。インドでは98%の農家が従来型の慣行農業ですので、オーガニック農法をやられている数少ない農家を見つけ出し、彼らに正確な知識を伝えていく事が非常に重要です。専門のアドバイザーやトレーナーたちが農家を訪ねて行き、その場でその状況に合わせたトレーニングまたは助言を行っています。知識とは、固定されたものではなくもっとダイナミックなもの、流動的なものです。常に更新され、その場に応じた形で運用されなければいけません。そこで私たちが大事にしているのがリサーチ、つまり研究です。ただ種を配るだけではなく、科学的に実証された栽培方法をトレーニングしたり、助言したりします。それらのサポートは全て無料で受けることができます。種を植えた後の栽培についても独自の基準を設けており、その基準に則って正しい方法で栽培されているということを認証するシステムも導入しています。そして、認証をクリアした原綿だけを農家から買い取っています。bioReプロジェクトの特徴としては、市場価格に最大15%のプレミアムを付けて買い取っているという点です。その15%は農家の方々の利益になるわけです。尚、収穫された綿花は私たちが農家を訪ねて集めるので、彼らは自分たちでマーケットに持ち込むという手間が省けます。私たちはそのようにして集めた綿花をジーニング(わたくり)工場に運びます。

新しいシーズンが始まる度に、既存の契約農家の方々と仕事を継続していく事は当然として、毎シーズン毎シーズン新たに取り組める農家を探すところから始めます。マッチする農家がいれば契約をし、先程ご説明した手順、オーガニック農法の技術提供、種子の販売、サポート、原綿の買い取り、という一連の流れを繰り返すわけです。

 

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Ginning

 

収穫された綿花はジーニング(綿繰り)という工程で繊維と種を分離します。そうしてできた原綿はプレス機で圧縮され200kgのベールにして出荷されます。私たちは専用のジーニング工場を備えていますが、ここはインドで初めてSA8000の認証を得た工場です。2016年には新たな工場が完成し、今シーズンから稼働し始めました。

 

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 Problem

 

高いレベルを追い求めれば求める程、新たな課題が出てきます。ここでオーガニックコットンをインドで作っていく上で私たちが抱えている課題を紹介したいと思います。

①オーガニック農法への誤った認識

農家の方々の間では「オーガニック農法では全く生産性が上がらない」という非常に根深い思い込みがあります。その認識を変えていくことは非常に難しいことです。

 

②種子の確保

インドで生産されている95%はGMOの種子を使用したGMコットンです。それにもかかわらず、インドで作られているオーガニックコットンの量は世界で一番多いのです。いかにGMコットンの生産量が多いのかということがお分かりいただけると思います。また、仮にNON GMOの種子が手に入ったとしても、品質の悪いものでは意味がありません。繊維の品質が良く、収量も高いNON GMO種子でなければ価値がないのです。しかし、これらの条件を満たす種子を入手することは非常に困難です。

 

③コットン以外の農作物の販売

オーガニック農法に切り替えた農家は輪作を行うため、大豆やトウモロコシなどの綿花以外の作物も収穫することになります。そのため、それぞれの作物を売るためのマーケットも探さなければなりません。

 

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④害虫問題

2005年まではボールウォームという蛾の幼虫が一番手ごわい害虫でしたが、現在は徐々に終息に向かっています。しかし、別の害虫の脅威が生まれています。GMコットンはボールウォームに対しては効果を発揮していましたが、現在猛威を振るっている害虫には効力がなく、GMコットンを脅かしている状態です。このことからも、GMO種子は自然に対抗していく事が非常に難しいということがよく分かります。ある害虫に対して効果を発揮できたとしても、それに耐性を持った虫が必ず出てくるのです。

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Counterplan

 

これらの課題に対して、私たちは様々な対応策を講じています。その幾つかをご紹介したいと思います。

 

①オーガニック農法と慣行農法の比較研究

私たちは、“オーガニック農法が従来の慣行農法よりも優れている”ことを科学的に証明していかなければなりません。そのために莫大な時間と労力をかけて研究を行っています。その一つがLONG TERM SYSTEM COMPARISON TRIAL(長期比較実験システム)というプロジェクトです。これはスイスのFiBLという組織と共同で実施しています。同じ土壌と生育環境において、様々な種類の種子と農法を組み合わせて栽培し、長期にわたってどのような差異が生じるのかを比較する研究です。

2007年からスタートしたこの研究の結果が徐々に出てきています。初期のデータから読み取れることは、慣行農法に比べてオーガニック農法での生産は7~15%程度収量は低下しますが、生産にかかるコストは38%程度低くなるということです。つまり、長期的に続けていけばオーガニック農法の方が利益が出るということです。

このような科学的なデータを用いて、オーガニック農法に対する誤った認識を取り除いていきたいと考えています。

 

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②NON GMO種子の育種と環境調査

インドでは非遺伝子組み換え作物の調査機関はなく、モンサントや現地の種苗業者はGMO種子の優位性を謳った大々的な宣伝を行っているため、多くの農家は何の疑いもなくGMOの種子を使って農業を行っています。

先程も申し上げた通り、品質の良いNON GMOの種を入手することは大変困難な状況になっています。悲しいことに、オーガニック農法をやりたくても市場ではGMOの種子しか手に入らないのです。

そこで、私たちは市場から種子を調達することをやめ、自分たちの手でNON GMOの種子をつくっていくことを決心しました。これは大変難しい決断でした。

2010年からインドのDharwad大学と提携し、共同で種子のブリーディング(育種)と環境調査を行っています。オーガニック農法に必要な種をこのような方法で確保しようとしているのは、世界的に見ても私たちだけです。

過去5年間、この研究を重ねていく中で300品種もの種子を開発しましたが、そのほとんどは失敗でした。300品種の中から10品種の種子が最終段階まで残りましたが、この10品種というのは、農業の側面から見ても工業の側面から見ても優れているということが実証されました。病気に強く、収量が高く、繊維の品質が良く、製品をつくる上での様々な生産工程においても扱いやすいということです。

目下の目標は、2020年までにこのような品種を増やしプロジェクト全体を賄える量を確保することです。そうすることで、このプロジェクト自体がより持続可能なものとなると考えています。

そして今回、この場でとても喜ばしい発表をしたいと思います。2017年の春、この研究を通じて開発した10品種の内、2種類の種子が実際に栽培をスタートすることになりました。これは私たちにとってとても大きな前進です。

 

③害虫対策

インドの専門家や科学者たちは、今後全く対抗できない害虫が出てくるのではないかとびくびくしています。どれだけGMO種子や殺虫剤を使っても、新しい害虫がどんどん出てくる。強い耐性を持った害虫には到底対抗できないのです。

唯一の解決策は、有機農法を通じて肥沃な土壌を作り、循環型の農業を行うということです。私たちは専門家の意見を聞き、現場の農家の方々にも参加をしていただきながら、新たな脅威に対してどのような対策がより有効なのかを日々研究しています。具体的には、参加型技術開発研究(PTD research)や 害虫マネージメントといった専門的な手法を用います。

 

④GMOテスト

GMOの混入を防ぐために、幾つもの工程で何度も検査を実施しています。

 

<LEVEL1 : 種子調達段階>

私たちが作った種であっても、外部から購入したNON GMOの種子であっても、種子を調達する段階で検査を行います。この段階では3つの検査ステージを設けています。

・1-1 購入前

まず、種苗会社から交配前の種子を取り寄せPCRテスト(遺伝子検査)を行います。

交配後の育種時には私たちの検査チームが生産現場を訪れ、コットンの葉をちぎってストリップテストという検査を行います。

・1-2 購入時

種苗会社から種子を購入する段階でロットごとにPCRテストを行い、合格したロットだけを購入します。

・1-3 農家へ供給時

供給時には農家のリーダーたちによってストリップテストが行われ、GMO種子が混入していないということが確認されます。私たちはその際、「この種はNON GMOではないことが確認されました。ですので、正しいオーガニック農法によってオーガニックコットンを作ってください。そうすれば私たちはそれを購入します」と農家の方々に伝えています。テスト結果は管轄の担当スタッフによって記録が残されます。

 

<LEVEL2 : 栽培段階>

栽培時にも2つの検査ステージを設けています。

・2-1 農場

担当の検査スタッフが契約農家の農地を訪れ、基準に則った手法で栽培されているかどうかをチェックします。葉をちぎり、ランダムにストリップテストを行います。もし違反をした農家がいた場合はその時点で契約リストから除外されます。

・2-2 綿花購入時

収穫された綿花を購入する際にはスタッフが農家を訪れ、その場でストリップテストを行い合格したものだけを購入します。この段階でGMコットンを混ぜることも出来てしまうからです。綿花のサンプルは保管され、検査結果は購入履歴と一緒に記録簿に残されます。

 

<LEVEL3 : 工業段階>

綿花を仕入れた後の最終段階においては3つの検査ステージがあります。

・3-1 ジーニング工場到着時

担当スタッフによって全てのトラックごとにストリップテストが実施されますが、ジーニング工場に到着した際には再度ジーニング工場のスタッフによっても同様のテストが行われます。運搬時に意図せずGMコットンが混入する可能性もあるからです。誰かを疑っているわけではなく、事故を防ぐための手立てです。

・3-2 第三者認証機関による認証時

第三者認証機関によって全ての工程に透明性があることが確認されるわけですが、その認証検査時にもPCRテストを行います。

・3-3 REMEIによる繊維検査

最後に、REMEIが第三者認証機関を通して全てのロットの繊維サンプルを入手し、ヨーロッパの検査機関にてPCRテストを実施します。

 

 

Demo

 

本日は、この場でストリップテストのデモンストレーションをやってみたいと思います。

ちなみに、このテストキットは私たちが作ったものではありません。実はGMO種子の生産で有名なモンサント社が作ったものです。モンサント社は自社のGMO種子がきちんと扱われているかどうかを検査するためにこのテストキットを開発しました。皮肉にも私たちはそれを使ってGMO種子が紛れ込んでいないかどうかをチェックしています。

ここにNON GMOの種子とGMOの種子、そしてテストキットの容器と検査薬、検査紙があります。種子の殻を割って中身を取り出し、粉々になるまで砕きます。テストに必要な量を得るためには15~20個の種をつぶさなければなりません。この粉の主成分はタンパク質ですが、これを検査薬の入った容器に入れ棒でしっかりと混ぜます。よく混ざったらそこに検査紙を差し込みます。

すると、だんだん検査紙に溶液が吸い上げられていきます。まるで妊娠検査薬のようです。妊娠検査をして女性が妊娠していたら誰もが嬉しいと思うように、これがNON GMOだったら私たちは同じように嬉しいのです。線が1本しか出なければこの種はNON GMO、その上にもう1本線が出てくるとそれはGMOです。bioReの専門スタッフたちが農場を訪ねるときには必ずこのキットをポケットの中に携帯しており、いつでもどこでもチェックできるようにしています。

 

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ここからはbioRe Associationの活動についてお話ししようと思います。

 

 

Annimationschool

 

bioRe Associationにはアニメーションスクールと呼ばれる学校が現在18校登録されており、1,158人の子供たちが通っています。このプログラムの目的は学校がない地域の子供たちに教育機会を提供することです。すべての学校は地域の方々によって運営されるような仕組みとなっています。学校に通う子供達には、制服や教科書などの必要な備品が全て無償で提供されます。それぞれの学校の建設費や運営費用はbioReのクライアントの資金提供によって賄われています。

Kalakhetにあるこの学校は、2007年にパノコトレーディングの支援を受け、2010年11月に開校しました。学校の土地はbioReの契約農家の方が提供してくださいました。開校式には野倉社長が訪れてくださり、盛大なセレモニーが行われました。現在2人の先生と41人の生徒がここで学んでいます。

 

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アニメーションスクールでは、5年生(12歳)までの子どもたちへ初等教育を提供していますが、13歳以降についてもサポートするためにもう少し規模の大きい学校を3校つくる計画があります。スイスの大手デパートであるコープスイスが、そのための資金を提供してくれました。3校の内の1校はすでに開校しており、500人の生徒が授業を受けています。アニメーションスクールを卒業した生徒たちだけでなく、他の学校を卒業した生徒たちも受け入れています。bioReに参画している農家の子ども達は無償で通学することができますが、それ以外の子ども達も同じというわけではないので、その子たちは学費を払って通っています。

 

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Doctorcar

 

インドの郊外には全く病院がない村がいくつもあります。bioReに参画してくれている農家が暮らす村々も例外ではありません。そういった方々に医療を提供する仕組みがMobile Health Unit Programです。このバスは移動式の病院のようになっており、レントゲンや心電図といった様々な機材を積んでいます。村々を巡回して健康診断を実施したり、同乗した医師が治療や薬を処方したりします。診療費用や薬の値段は相場の半額以下です。2007年から現在まで、のべ9万人を超える方が診察を受けてきました。

 

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Toilet

 

インドの農村では家にトイレがないという場合が多々見受けられます。それは感染症などの温床にもなっています。そのため、生活区域にトイレを設営するSanitation Programを実施し、農家の人たちにその作り方をレクチャーしています。

 

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Carbonneautral

 

カーボンニュートラルの取り組みについて紹介します。

bioReプロジェクト全体で排出されるCO2をオフセットするために、種まきから綿花の収穫、その後の工程において発生するCO2についてもコントロールしています。削減する方法としては、熱効率の高い無煙ストーブの設置や、牛糞を発酵させて得るバイオガスの利用などがあります。現在4,500台の無煙ストーブと3,800基のバイオガスプラントが稼働しており、それによって削減されたCO2によってカーボンニュートラルを実現しています。

 

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Support

 

女性の社会的な自立を支援するために幾つかのプログラムを実施しています。そのうちのひとつがAavran Handloomという手織り生地のプロジェクトです。収穫したオーガニックコットンを手で紡ぎ、人力の織機で手織りします。草木染めをすることもあります。また、ミシンを提供して簡単な製品の縫製をするプロジェクトも始まっています。タンザニアのひとつのグループはパノコトレーディングがサポートしてくれました。こういった小さなグループが各地域で組織されています。このようにして出来上がった製品は地元のマーケットで販売されたり、サポートしてくれている企業が購入してくれています。こういった社会的な取り組みは創始者のパトリック・ホフマン氏の理念に基づいていますが、経済的にきちんと成り立つ仕組みをつくるという事がとても大切です。経済的に余裕がでてくると精神的にもゆとりができ、自分の行動に対して責任を持てるようになります。そうなることで社会的な視点を持つことができ、その視点が社会に還元されるという流れが生まれます。そのサイクルをつくることがすごく重要です。

 

以上、bioReプロジェクトの具体的な活動についてお話しさせていただきました。皆様にとって何か新しい発見があったのであれば幸いです。本日はお集まりいただき、またご清聴いただきましてありがとうございました。